ハヅキさんのこと

ハヅキさんのこと

ハヅキさんのこと

 エッセイを、という約束で書き始めたのだが、そもそも三枚以上のエッセイは不得手で、横になっても縦になっても斜めになってもさかさになっても、約束の八枚ぶんの文章がでてこない。それならばいっそのことエッセイとも小説ともつかないものにしてしまえと、はんぶんやけくそのように書きはじめたのが「ハヅキさんのこと」だった、という次第だ。
 
 書いてみると、エッセイの体裁をとった小説は、たいそう体質に合っていた。

と、この本のあとがきにあるのだけれど、本人にしてもするするっと書けたであろうこの虚実ない交ぜの文章は読んでいる方にとってもするすると内側に染みこんでくるような感じでとても心地よいのだった。

さて、表題作の「ハヅキさんのこと」である。
入院したハヅキさんという、かつての教師時代の同僚であった女性を見舞いに行く途中の川上さんがバスのなかで昔の記憶に思いをめぐらせる。学校での勤務が終わった後に居酒屋でくっちゃべっている記憶である。

なんだかこんな話は前にもどっかで…。
と思った僕は自宅本棚から文庫版の彼女の(不得手とするところの)エッセイを抜き出してきて、ぱらぱらめくっていると「金魚のC子さん」(『ゆっくりさよならをとなえる』に収録)に似たようなはなしが載っていて、「おぉ、ハヅキさんはマリ子さんであったか」と、ひとりで勝手に納得したのだった。

ちなみに、「金魚のC子さん」というのはマリ子さんが川上さんに貸してあげた文庫本『田紳有楽』に出てくる、ぐい飲みに想いを寄せられる金魚であるらしい。

これぜひ読んでみたい。

田紳有楽・空気頭 (講談社文芸文庫)

田紳有楽・空気頭 (講談社文芸文庫)