「焚火」志賀直哉

初めての志賀直哉である。
芥川の「海のほとり」との関連で、「焚火」を読んだ。

この間読んだ芥川の全集(岩波の旧字体の第八巻)の中に夏目先生のことというのがあって、漱石が志賀さんのような文章は書きたくても書けないのですという芥川に云うことには、文章を書こうと思わないで、思うが侭書くからああいう文章になるんだろうね、僕もああいうのは書けない。

と、こう語るところがあるのだけれど、「焚火」の中でKさんの雪の中峠を登ったときの噺から、突然に自分の妻の台詞が飛び出してくるところなど、なんとまあ、と感嘆せずにはいられない。

まさに話すように書かれた文章なのである。ここで、話すようにというのは頭の中にあるイメージをありありと読むものに感じさせるということです。映画の平面に映し出された映像なんかよりも、もっとこう、ありありと、その情景を読者に浮かばしめる彼の書き方というのは本当にすごいぜ、と思う。

すごい作家がいたものです。

小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)

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