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- 作者: 江國香織
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/10/28
- メディア: 文庫
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随分とひさしぶりに江國さんの本を読んだ気がする。とっても詩的な小説だった。
閉じてしまっている私の自由で幸福で、それでいて孤独な絶望のうた。
書き出しからして、すごい。
「かつて、私は子供で、子供というものがおそらくみんなそうであるように、絶望していた。絶望は永遠の状態として、ただそこにあった。そもそものはじめから。」
主人公の「私」は中年の絵描きの女性だ。
朧気な記憶をたどると、『日のあたる白い壁』の中に、私は絵がかけないから、絵について書いているのだと思う、という一節があった気がする。
この小説の主人公の絵描きの私は、だから、絵の描ける江國さんだ。絵の描ける江國さんは現実の世界にはいないのだけれど、絵の描ける自分を彼女は小説の中に生かしてしまう。
そうして、自分の部屋に掛ける絵を、自分でかいてしまうのだ。
ある意味で、これは欲望の充足だ。
しかし、絵の描ける私は、絶望している。
絵の描けない江國さんが、絵の描ける私を物語の世界の中に生かし、生かされた私は幸福に生きているのかと、安直な僕は思ってしまうのだけれど、それは全くぼくの思考が単純すぎるせいで、小説であっても幸福はそんなに簡単におとずれない。
本の中の私は、恋人と過ごすとき、満ちたりた蜜のような幸福の中にいる。しかし彼女は同時に、閉じられた世界の絶望のふちにいることも、また、知ってしまっている。
幸福でありながら、同時に絶望しているという状態。
それが、詩的な文章で描かれている。
この本は、そんな小説だ。
読んでいて、泣きそうになる。
僕は、泣きたいのだが泣けなくてそれがもどかしかった。