『海辺のカフカ』再読

NагΑ Насy いま、再読中なんですが。

上巻の、ジョニーウォーカーを中田さんが刺すくだり、前読んだときは、カフカくんにかけられた呪縛によって、意識を失っている4時間の間、カフカくんがナカタさんに憑依する感じで、実父なるジョニーウォーカーを殺したのかなと、そのときの返り血が、神社の境内で意識を取り戻したときについていたTシャツの染みかなと、そんな印象だった記憶なのだけれど。今回は少し違う感じを受けたので記録として。

12章の小学校の先生の告白の手紙で、平らな「石」の上で夫と交わる夢をみて、野外実習の最中に月経がはじまって手ぬぐいで処置をする、それをナカタ少年が持ってきて、それが引き金になって、「私ではないもの」にとりつかれた教師に打たれナカタさんは記憶をすべてなくしてしまう。

さくらのアパートで、カフカくんのTシャツの血はかなずしも人を刺したものによるものではないことが語られる。

森の中の小屋で読むナチスの戦犯の伝記を読み、大島さんのメモを読んで「in dreams begin the responsibilities ―夢の中から責任は始まる」ということについて考える。想像の中、自分がかけられた裁判で人々が「僕」を批難する、「誰の夢であれ君はそれを共有してしまったのだから、夢の中で行われたことに対して君は責任をもたなければならない」と。「それは君の魂の暗い通路を通って忍び込んできたものなのだから」


こういうのを読んでいると、心の深層のさらに底のような部分に、暴力を誘うような「なにか」が沈んでいて、何かのきっかけでそれが意識の縁まで浮かび上がってきたときに、多くの場合ひとはそれを夢として体験するようであるけれども、その夢の体験をした人が誰かを決定的に損なってしまった場合には、ひとはその夢に対しても責任を取らなければならない、そう「人々」が批難しているように感じられる。

まとまりなくてすみません、印象を書きとめておきたくて。
202 2008年12月02日 22:46 パープルタオ >NarAHacyさん はじめまして

「夢にに対する責任」と言うものがあるとしたら、それはどんな「責任」だと思われますか?具体的に何をすれば、「責任を全うした」ということになるのでしょう?

すみません。唐突に質問をして。

すごく気になったもので…。
203自分のコメントを削除する 2008年12月03日 02:13 NагΑ Насy >パープルタオさん、はじめまして

初めて読んでから3年以上で、いま上巻の途中なので
おぼろげなる記憶と、現在の印象からの
お答えしかできませんが、
できる限り。
具体的に責任を全うするにはどうすれば?ということは
まだ整理できていないので、夢に対する責任ということ
についてのみ。

カフカくんはナカタさんを媒介にして父親を象徴的に殺しますよね。(ナカタさんは『ねじまき鳥』の占い師のおじいさんのように外からの意思のようなものをとりこむ巫女のような、メディアのはたらきを持っていたと思います、たしか。)
その彼の無意識世界での出来事が現実世界でも反映されて父親が死にます。

そういう意味では、自分の肉体が父親を実際にさしたわけではないということで、現実界で法律により殺人罪として裁かれ、贖罪として服役するというような責任は彼は負うことはないです。物理的にも東京と四国と離れていますし。

けれども、無意識の世界であれ、父親の呪縛の通りに
父親を殺したということは少年の心の中で
罪の意識としてはおそらく残るだろうと思われます。
ですから、その心の中の罪の意識というのを
みないようにするのではなく
直視しなければならない、それが彼にとっての責任と
なるのではないかな、と僕は思いました。

同じようなことが母としての佐伯さん、姉としてのさくら
との交わりにもいえる気がします。

心理学はまったく門外なのでよくわからないですが
父親は影、佐伯さんとさくらはアニマの元型かなと思うのですが、それらとと係わり合いで少年が抱えている問題を
乗り越えていくために、父親にかけられた呪縛に
正面から向き合うという「責任」を負うことが必要なんじゃないかなと

まとまり無いですがちょっと長くなりそうなのでこんな感じで。
204自分のコメントを削除する 2008年12月03日 02:49 NагΑ Насy 203のつづきをもう少し

201で【こういうのを読んでいると、心の深層のさらに底のような部分に、暴力を誘うような「なにか」が沈んでいて、何かのきっかけでそれが意識の縁まで浮かび上がってきたときに、多くの場合ひとはそれを夢として体験するようであるけれども、その夢の体験をした人が誰かを決定的に損なってしまった場合には、ひとはその夢に対しても責任を取らなければならない、そう「人々」が批難しているように感じられる。 】書きました。

この、「暴力」によって他人を損なってしまうというところに関して。

この物語の中では、時間軸上はじめの方で(ナカタさんとカフカ君の生きる世界が同一の時間軸上にあると仮定して)まず、教師の女性が何かにとりつかれてナカタさんの影の半分を損ないます。そのことによってナカタさんの時間は精神的には止まってしまう。

その止まった時間を回復するのが物語の世界でカフカくんと
ナカタさんが動き回るひとつの目的になっている気がします。その一部として、

カフカ君の無意識がナカタさんに憑依してジョニーウォカーを刺すシーンは、ナカタサンにとっては、教師の女性が何かに取り付かれてナカタ少年を殴たことの追体験となり、カフカ君にとっては父親殺しの呪縛という二重性を感じます。

また、教師の女性が野外実習の前夜でみた夢の中で
「石」の上で「交わる」ことと、小説の後半でナカタさんと星野くんが「石」を探して奔走する、カフカくんが佐伯さんと「交わる」こと、何かこうひとつの起点が彼女の見たという
夢の中にあったんじゃないか。
205 2008年12月03日 05:41 パープルタオ NarAHacyさん 

わがままを受け取っていただき、貴重な時間を僕のために割いていただいたことにまず感謝致します。ありがとうございました。

とても、ながれるようなご説明でひっかかることなく、すんなりと読ませていただきました。

203については有る意味(暴力とは?という最近の村上さんのテーマ?しかも、その根源を表現してやろうという強い意思を感じています。それは、逆に暴力を無くすにはどうしたら良いかを暴くためには、暴力を描写しないといけないと言う、一見矛盾した事態をきちんと理解なさっているからだと思いました。余談でしたすみません)僕の読んだ感想と似ています。ただ、責任問題については、僕の場合(僕も初版で一度しか読んでおりませんけれど)頭が回りませんでした。

たしかにカフカ君は間接殺人罪?間接婦女暴行?を犯しているように読めますよね。まだ15の少年に、その責務を負わせようと思った(かどうかは分かりませんけれど)村上さんはかなりキツイ設定をあえて選んだのがさすがだと、これはNагΑ Насyさんの解題を読ませていただいて思いました。故に世界で一番タフでないと勤まらない、そう今思ったところです。つまり、残りの人生をその債務を背負わなくてはならないので。

僕も素人ですけれど、父を投影対象、佐伯さん(2人とも)とさくらさんが、アニマだという解釈は確かに可能かと思いました。とかく「エディプス神話」というフロイト的解釈をされがちな本作でしたけれど、たしかに、話としてはユング的解釈の方がしっくりくる感じもいたします。

あとは「石」のシンボル解釈ですが、いま「イメージ/シンボル辞典」で調べたところ、なかなか1ページ半も意味があって、驚きました。

関連しそうなものとしては「祭壇」「神のエンブレム」「男根」などなど、あげきれませんけれど、なんとなく、わかるような「気」がしました。

もし、よろしければ完読したさいに、「責任の全うについて」のご見解を是非お聞かせいただければと思います。

感謝致します。ありがとうございました。長文失礼致しました。僕の感想のピントがずれていたらば、申し訳ありません。
206自分のコメントを削除する 2008年12月05日 04:06 NагΑ Насy >パープルタオさん

夢の中に責任は始まる、そしてそれを全うするとはどういうことか?に関して。

佐伯さんについては42章で彼女の口から直接このことについて語られていました。
ナカタさんからホシノくんに引き継がれるものについては
48章で黒猫のトロさんによって示唆されています。
カフカ君は物語の終わった後にどう生きていくかということじゃないかな、と思います。

佐伯さんとナカタさんは過去にむこうの世界へ行って
こちらに戻ってくるときに影の半分を失っています。
それが夢に対する責任の発生の原因となったようです。

責任というのも、この物語を貫通して語られるひとつのテーマだったんだなと読み終えて思いました。

はじめはおぼろげな印象だったものがパープルタオさんのご質問によって自分の中で言語化されて物語の中に流れているひとつのテーマをすくい出せたのは僕にとっても収穫でした。感謝です。

風の歌を聴けじゃないですけれど物語の中を吹く風の音に
耳を澄ませてみるのは、すごく、なんていうか、貴重な体験でした。
207 2008年12月05日 15:12 パープルタオ >NагΑ Насyさん

わざわざお付き合いさせてしまって恐縮です。

今探したのですが、下巻が見あらず、佐伯さんのセリフがわかりません。
家がかたづいたらでてくると思うので、参考にしてみます。下はあるので今から
読んでみます。

それから、僕自身「責任問題」という隠れテーマもあると知って、
ひとつのことを学ばせていただきました。

しかし、感謝していただいて光栄です。申し訳ないと思っていたので。

こちらこそ感謝致いたします。ありがとうございました。

W.L.



mixi村上春樹コミュニティに書いたものです。