11月の読書記録

11月の読書メーター
読んだ本の数:26冊
読んだページ数:5043ページ

主題歌主題歌
結婚式で競馬の歌が歌われている。ただそれだけのことなのだけれど、その歌は誰か大勢の人たちに聴かれるわけではなくてただその結婚式の2次会の場にいあわせた何十人かの耳にしか入らないのだけれど、その場にいる何十人かは確かに彼女の歌う歌を聴いていて、ただそれだけで彼女が歌っていることに大きな意味があるのだと、そういう風な視点が僕にはなんだか欠けていて、それは驚きであり、また、感動を呼び込む出来事なのだった。なにげないものごとに感動できるこころをきっと僕は忘れていて、それを呼び起こされた。読んでよかった。
読了日:11月30日 著者:柴崎 友香
腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫)腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫)
読了日:11月27日 著者:本谷 有希子
ノルウェイの森〈下〉ノルウェイの森〈下〉
読書会のために再読。 幸せになりなさい。レイコさんの忠告。 自分に同情するな。 永沢さんの忠告。 あなたはどうしてそういう人たちばかり好きになるの。 直子の言葉。
読了日:11月26日 著者:村上 春樹
ノルウェイの森〈上〉ノルウェイの森〈上〉
読書会のために再読。小林書店の物干しで火事を眺めているところ、不思議。
読了日:11月26日 著者:村上 春樹
奇想と微笑―太宰治傑作選 (光文社文庫 も 18-1)奇想と微笑―太宰治傑作選 (光文社文庫 も 18-1)
読了日:11月26日 著者:太宰 治
BRUTUS (ブルータス) 2009年 12/1号 [雑誌]BRUTUS (ブルータス) 2009年 12/1号 [雑誌]
読了日:11月25日 著者:
Pen (ペン) 2009年 11/15号 [雑誌]Pen (ペン) 2009年 11/15号 [雑誌]
読了日:11月25日 著者:
ムーン・パレス (新潮文庫)ムーン・パレス (新潮文庫)
絆の物語なのだと、そう思ったのだった。母が死に伯父が死に、一度すべての身寄りを失ったMSフォッグ。喪の作業としての読書。絆を失い、世界から切り離されて彷徨い漂う。祖父、そして父とめぐり合い、そして彼らを失い、キティとも別れ、喪失の只中で物語りは終末に向かう。すべてを亡くしてもも自分が何ものであるのか、それを知ったことで新たに彼は生きなおせたのか。海にたどり着いた彼は、死んでしまったのか。
読了日:11月25日 著者:ポール・オースター
新潮 2009年 12月号 [雑誌]新潮 2009年 12月号 [雑誌]
ナオコーラ新作を読む。面白い! 単行本になったら、買おう。『この世は二人組みではできあがらない』
読了日:11月24日 著者:
ku:nel (クウネル) 2010年 01月号 [雑誌]ku:nel (クウネル) 2010年 01月号 [雑誌]
パリ特集。川上弘美「ブイヤベースとブーリード」大学卒業旅行のフランス旅行の恋のはなし。江國姉妹往復書簡。江國さん老眼鏡(!)をつくる。
読了日:11月23日 著者:
コノヒトタチ つっつくべからずコノヒトタチ つっつくべからず
読了日:11月22日 著者:S. シルヴァスタイン
禅的生活 (ちくま新書)禅的生活 (ちくま新書)
迷い、妄想、因果律、私、自己、意識、分別、自由、平常心、志、風流、とはなんなのかということを、あくまでも生活に立脚して禅の視点からとらえなおすことができた。ところどころに引かれる禅師たちの呼んだ和歌が、深遠なる禅の世界を生活の中から照らし出してくれる。
読了日:11月21日 著者:玄侑 宗久
ハヅキさんのこと (講談社文庫 か 113-1)ハヅキさんのこと (講談社文庫 か 113-1)
読了日:11月20日 著者:川上 弘美
道化師の恋 (河出文庫文芸コレクション)道化師の恋 (河出文庫文芸コレクション)
20年前の小説。目白四部作の四作目だと解説で江國さんがいっていた。改行のほとんどない口語の饒舌で冗長なこの独特の文体。シニカルでいてユーモラス、そしてペーソス。ユーモアの感覚は、古びるのが早い。そのおかしみの鋭さが鋭ければ鋭いほどに。今読む価値があったのかよくわからない。当時の日本のポストモダンの流行の最先端にあったのかもしれないけれど、ポストモダンてまだ生きてるの?よくわからない。
読了日:11月18日 著者:金井 美恵子
論理と感性は相反しない論理と感性は相反しない
初めて読んだんだ。筆名がふざけすぎているじゃん。「人のセックスを笑うな」の映画は劇場でみたんだけれどね。永作さんも蒼井ゆうもかわいかった。連作短篇集書下ろしってけっこうめずらしいのかな? 手が込んでいて楽しめたのだ。でも、なんか、いまひとつ、こう、日常の枠をぐわーんと突き抜けちゃうようなすごさはなくて、よくできた小品ってそんな感じ。おもしろくはあるが、でもなんかもっとほしいと欲張りな読者はおもうのです。
読了日:11月17日 著者:山崎 ナオコーラ
夕子ちゃんの近道夕子ちゃんの近道
古道具屋の二階の物置と化した部屋に家賃なしで住み込みでバイトしている男子と店長と家主さんと娘たちとお客さんとが、あれこれとしている、ただそれだけなのだ。なのだが、なぜだか、読んでいてすごく心地よい小説だった。肌に水の染み透るような、感触。長嶋有の小説ははじめて読んだ。一気に好きになってしまった。読み終えた瞬間に、あ、この本また読むな、と思う本というのは、なかなか出会わない。この本は、そんな本の一冊になったのでした。
読了日:11月16日 著者:長嶋 有
ウエハースの椅子 (新潮文庫)ウエハースの椅子 (新潮文庫)
江國香織の本を実家にまとめてダンボール1箱分送ってしまったのが2年くらい前で、それから彼女の小説は読んでいなかった。最近何度かこの小説を本屋さんの新刊コーナーかなにか、平積みされているのにたびたび遭遇し、買う。孤独と絶望と自由の甘いふちに生きる、恋人と分裂的な絵描きの女の人「ちびちゃん」の話。雨の日がよく出てくる。しんみりとして、読んでいて泣きそうになったけれど泣けないのがもどかしかった。
読了日:11月15日 著者:江國 香織
人間は考えても無駄である-ツチヤの変客万来 (講談社文庫 つ 24-3)人間は考えても無駄である-ツチヤの変客万来 (講談社文庫 つ 24-3)
土屋先生の文庫新刊だ、と思って中身も見ないで買ってしまう。エッセイではなくて対談集で、ちょっとがっかり。
読了日:11月14日 著者:土屋 賢二
螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)螢・納屋を焼く・その他の短編 (新潮文庫)
「めくらやなぎと眠る女」読書会用に再読。こっちのほうが、べたっとまとわりついてくるような印象。
読了日:11月13日 著者:村上 春樹
レキシントンの幽霊 (文春文庫)レキシントンの幽霊 (文春文庫)
読了日:11月13日 著者:村上 春樹
小説、世界の奏でる音楽小説、世界の奏でる音楽
この本のなかで、小説らしくない、しかしもっと小説らしい小説を書きたい、と保坂和志の言っていた小説が、群像で連載が始まった。文芸誌とか、毎月買わないからなあ。早く連載終えて単行本となれ。「もっと小説らしい」というのの比較の対象はこの小説論で、小説論でありながらそれ自体が小説であるということらしい。小説っぽい見た目でなくてもそれが小説になりうることの不思議。小説っぽい見た目だから小説になるというわけでもないのだけれど、「小説について考えること」と実作って、やっぱ違うもんじゃないのと素人は思う。
読了日:11月12日 著者:保坂 和志
小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)
読了日:11月08日 著者:志賀 直哉
群像 2009年 11月号 [雑誌]群像 2009年 11月号 [雑誌]
読了日:11月06日 著者:
yom yom (ヨムヨム) 2009年 10月号 [雑誌]yom yom (ヨムヨム) 2009年 10月号 [雑誌]
●特集【誰もがすなる日記】 鼎談 「作家が日記をつけるとき」 角田光代 川上弘美 山本文緒  ● 「この文章を読んでも富士山に登りたくなりません」 森見登美彦
読了日:11月05日 著者:
ラカンの精神分析 (講談社現代新書)ラカンの精神分析 (講談社現代新書)
対象aという概念がなかなかつかめなかった。一冊、通読して、なにが書かれていたのか朧気につかめる感じ。ラカンの入門書としての位置づけから、おそらく『セミネール』の形式にならって書かれているのだと思う。入門書ではあるが、本格的でチャレンジング、読み応えがある。対象aの説明に黄金比を例にして解説しているが、rationalと思っていたものがじつはirrationalだったというメビウスの輪的な感じがこの概念にはふさわしいと思った。
読了日:11月02日 著者:新宮 一成
BRUTUS (ブルータス) 2009年 11/1号 [雑誌]BRUTUS (ブルータス) 2009年 11/1号 [雑誌]
読了日:11月01日 著者:

読書メーター

主題歌

主題歌

日常の中に通奏低音のように流れている悲しみをこんなにうまく描く作家に初めてであった。川上弘美保坂和志が彼女の小説を話題に挙げていて、何冊か買ってみたのだけれど、この小説を読むまでは柴崎友香の書く小説の一体どこがいいのか、よくわからなかったのだった。

心揺さぶるような出来事が描かれているわけでもなく、ただ淡々と日常が書かれている。それは冗漫なくらいに。
ホームパーティや友人のイラストの個展や、ライブのこと。
そして、たくさんのかわいい女の子たち。

そんななかで一番感動したのは

結婚式で競馬の歌が歌われている。

ただそれだけのことなのだけれど、その歌は誰か大勢の人たちに聴かれるわけではなくてただその結婚式の2次会の場にいあわせた何十人かの耳にしか入らないのだけれど、その場にいる何十人かは確かに彼女の歌う歌を聴いていて、ただそれだけで彼女が歌っていることに大きな意味があるのだと、そういう風な視点が僕にはなんだか欠けていて、それは驚きであり、また、感動を呼び込む出来事なのだった。

なにげないものごとに感動できるこころをきっと僕は忘れていて、それを呼び起こされたこの小説はそれだけで読んでよかったと思えたのでした。

10月の読書メーター
読んだ本の数:7冊
読んだページ数:1786ページ

みかこさん 1巻みかこさん 1巻
読了日:10月28日 著者:今日 マチ子
生きづらい<私>たち (講談社現代新書)生きづらい<私>たち (講談社現代新書)
ボーダーラインと解離性障害について、病者と常人の境界線がぼやけてきているということが論旨。これらの症状を扱った小説や他書の紹介として読む。文体が薄っぺらくてこの人の文章苦手だ。『ラカン精神分析』の本を知ったのが最大の収穫。
読了日:10月28日 著者:香山 リカ
写文集 猫と花 (講談社プラスアルファ文庫)写文集 猫と花 (講談社プラスアルファ文庫)
読了日:10月28日 著者:武田 花
真鶴 (文春文庫)真鶴 (文春文庫)
常世から、彼の地へ深く深く潜ってゆくと、自分の中の自分とは認めていない自分がいて、僕にとってそれは礼であり、ついてくるものであった。生きることに飽いてる自分が今ここにいて、生きていることに飽いているその空虚感を、そして同時に、恋ふる人への想いとがふきだしてきて、ちょっと現実生活に支障が。
読了日:10月26日 著者:川上 弘美
フィッシュストーリーフィッシュストーリー
読了日:10月12日 著者:伊坂 幸太郎
アマノン国往還記アマノン国往還記
読了日:10月06日 著者:倉橋 由美子
久世塾久世塾
シナリオ教室のゲストスピーキングをまとめて本にしましたというかたちの本。どん底でこそ日々の生活をていねいにしなさいっていうのは、すごく、ぐっと来た。
読了日:10月05日 著者:久世 光彦

読書メーター

ウエハースの椅子 (新潮文庫)

ウエハースの椅子 (新潮文庫)

随分とひさしぶりに江國さんの本を読んだ気がする。とっても詩的な小説だった。
閉じてしまっている私の自由で幸福で、それでいて孤独な絶望のうた。
書き出しからして、すごい。
「かつて、私は子供で、子供というものがおそらくみんなそうであるように、絶望していた。絶望は永遠の状態として、ただそこにあった。そもそものはじめから。」

主人公の「私」は中年の絵描きの女性だ。

朧気な記憶をたどると、『日のあたる白い壁』の中に、私は絵がかけないから、絵について書いているのだと思う、という一節があった気がする。

この小説の主人公の絵描きの私は、だから、絵の描ける江國さんだ。絵の描ける江國さんは現実の世界にはいないのだけれど、絵の描ける自分を彼女は小説の中に生かしてしまう。
そうして、自分の部屋に掛ける絵を、自分でかいてしまうのだ。
ある意味で、これは欲望の充足だ。

しかし、絵の描ける私は、絶望している。
絵の描けない江國さんが、絵の描ける私を物語の世界の中に生かし、生かされた私は幸福に生きているのかと、安直な僕は思ってしまうのだけれど、それは全くぼくの思考が単純すぎるせいで、小説であっても幸福はそんなに簡単におとずれない。

本の中の私は、恋人と過ごすとき、満ちたりた蜜のような幸福の中にいる。しかし彼女は同時に、閉じられた世界の絶望のふちにいることも、また、知ってしまっている。
幸福でありながら、同時に絶望しているという状態。
それが、詩的な文章で描かれている。
この本は、そんな小説だ。

読んでいて、泣きそうになる。
僕は、泣きたいのだが泣けなくてそれがもどかしかった。

読書記録09.08月

8月の読書メーター
読んだ本の数:10冊
読んだページ数:2178ページ

花とクレーン花とクレーン
空にそびえるクレーンと、足元の花。取り合わせにやられた。ポラロイドの写真はなぜかノスタルジーを抱かされるのだけれど、西さんは同世代なんだよな。個展で生のポラロイドの張り巡らされた空間はなんだか非現実的で、夢見心地しにけり。
読了日:08月30日 著者:西 真智子
此処彼処 (新潮文庫 か 35-9)此処彼処 (新潮文庫 か 35-9)
川上弘美の文庫新刊エッセイ。駅前の商店街の本屋さんで見つけて買う。日経新聞に連載していた、場所にまつわるエッセイ集。近所の居酒屋でキリンラガーの大瓶を片手にさんまをつつきながら読む。ひどく行儀が悪いが、たいへん心地よいひと時である。快いのはビールのせいかもしれないが、多分それだけではなくて、彼女のつむぐことばたちの、なぜだか僕の肌にすーっとしみとおっていくような、水があうような快さなのである。細かなことでうじうじと思いわずらっていた事柄が、さあっと潮の引くようにして去っていって、助かる。
読了日:08月28日 著者:川上 弘美
澁澤龍彦幻想美術館澁澤龍彦幻想美術館
西真知子さんのポラロイド写真個展を道玄坂に見に行って、雷雨に見舞われ、罐詰となり、ギャラリーの本棚にあったのでめくる。妻の緊縛の写真がすごかった。
読了日:08月25日 著者:巖谷 國士
カンバセイション・ピース (新潮文庫)カンバセイション・ピース (新潮文庫)
読了日:08月14日 著者:保坂 和志
あの子の考えることは変あの子の考えることは変
渋谷リブロのサイン会に行った。美人じゃん本谷有希子。存在がフィクションみたいだった。小説の最後の、煙突を登っていくところのメタフォリカルな射精ってのはよくわからなかった。ダイオキシンだって意味不明だ。でもずいぶんおかしい。何でこれがブンガクなんだろうと思う。ブンガクってなんだ?
読了日:08月09日 著者:本谷 有希子
江利子と絶対〈本谷有希子文学大全集〉 (講談社文庫)江利子と絶対〈本谷有希子文学大全集〉 (講談社文庫)
読了日:08月09日 著者:本谷 有希子
小学生日記 (角川文庫)小学生日記 (角川文庫)
読了日:08月07日 著者:hanae*
生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)生きてるだけで、愛。 (新潮文庫)
併録の短編の環八をただ歩いているだけで小説になるのが不思議。本編は展開がぎこちないけども、いま自分のいる世界が本当に現実なのかって不確かでぼわぼわしたところからどうしようもなく崩れていく、落下する爽快感というかが心地よい。
読了日:08月05日 著者:本谷 有希子
幸せ最高ありがとうマジで!幸せ最高ありがとうマジで!
共振。固有振動数がぴたりと来て、心揺すぶられる。きづいたら大ファンになってしまった。1冊目なのに。DVDまで買う。永作博美主演、パrコ劇場2008秋公演。病むなら病むで明るく病んでりゃいいじゃねーかよってのが、僕には新鮮に思えた。新刊も買う。渋谷リブロでサイン会やるというので。
読了日:08月04日 著者:本谷 有希子
いとしい (幻冬舎文庫)いとしい (幻冬舎文庫)
再読。なんだか急に読みたくなって、本棚をあさるも見つからず、書店を何軒かまわって見つけて買う。ぼやぼやとした非現実的な空気、たまに恋しくなる、いや、いとしくなる。いとしい。
読了日:08月01日 著者:川上 弘美

読書メーター

<私のいる風景> ;綿矢りさ・作家

(2007年3月5日 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20070305bk13.htm


教室 閉鎖的で複雑、でも無駄がない



「大学で一番面白かったのは心理学。履修できる心理学系の講義は全部取りました」 (都内の高校で)



 都内の、とある高校。3年生の教室は、受験の季節だからか、置き忘れられたような、しんとした空間だった。席につくと、その姿が空間に溶け込む。綿矢さんには教室がよく似合う。



 「高校のことを書いている時は楽しいですね。いろんな人がいるし、閉鎖的だし、毎日顔を合わせているから複雑な人間関係ができているし。でも、教室自体のイメージは、ほんまにさわやかな感じ。無駄なものがないからなのか」



 時にやわらかな京都弁が混じる。高校3年秋のデビュー作『インストール』でも、続く『蹴りたい背中』でも、人物が教室にいる時は、級友たちのおしゃべりやざわめきが響いてくるようだった。だが、新作『夢を与える』の主人公、夕子の場合は、違っている。彼女が教室にいる時間は「心ここにあらず」。チャイルドモデルに始まり、自分の成長する姿を「半永久的に」追わせるテレビCMに出演して人気者になり、やがてスキャンダルにまみれる少女には、学校とは別に「仕事」の世界があるから。

  

 実はその前に取り組んでいた小説があった。大学3、4年のころ、『蹴りたい背中』の延長線上で、高校から大学に舞台を移した世界を描こうと思っていた。が、書き進められなくなってしまう。



 「結構、苦しんでいました。私なりに、悩んじゃって。想像力が働かない、これからどうなるか全然わからへん。書いたのを読み直す作業が、つらかった」



 編集者に締め切りを設定されていたわけではない。逆にその分、



「この苦しみがいつまでも際限なく続くのか」
と焦りは募り、世界は灰色に変わった。



 その苦しみを救ったのもまた、小説の力だった。



「女の子がどんどん成長していったら面白いかな。それと、仕事をしている人の話が書いてみたい」
芸能界はテレビの中ではあるけれど、幼いころから見ているから身近だった。執筆を進める中で、これまでの2作にはなかった、初めての感覚を体験した。



 「自分の想像するスピードより、登場人物の動きが速く進む感じがありました。想像力がグルグル回っているときには、確かに人物が動き出している。それをちょっとだけ、味わいました」



 ただその後を追いかけて行きさえすればよかった。書くことが「楽しくてしょうがなかった」。三人称語り、500枚という長さ、そして自身の属する場所とかけ離れた世界の住人を描くこと――初めてづくしだが、新しい挑戦をした意識はない。「ただがむしゃらに、できるものをやった」結果だと、今思う。

    

 「私の世界は、まだ狭い」
 芥川賞に決まった19歳は、記者会見でそう語った。3年を経て、新作を書ききった充実感の中にいる。夕子の18年間を書くことで、あたかも作家自身、挫折と成長の時間をくぐりぬけたかのように。



 「狭さということを、確かに気にしていたところはありました」
 作家は「教室」から一歩、外へ踏み出したのではないだろうか。親密で、時に緊張もはらむ四角い部屋から、開かれたさらに広い世界へ。



 「次はもっと長い小説、人物がたくさん出てくる小説を書いてみたい」

 その作品は、作家をまた違う世界に連れてゆくに違いない。(文・山内 則史、写真・伊藤 紘二)

 ◆わたや・りさ 1984年京都市生まれ。2001年『インストール』で文芸賞を受けデビュー。04年『蹴りたい背中』で、史上最年少の19歳11か月(受賞決定時)で芥川賞。昨春、早稲田大学教育学部国語国文学科を卒業した。

スクラップ・本よみうり堂

『きのうの神さま』 西川美和

きのうの神さま

きのうの神さま


http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20090504bk01.htm


綿矢りさ・評/『サガン

サガン 疾走する生 (FIGARO BOOKS)

サガン 疾走する生 (FIGARO BOOKS)

http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20090629bk03.htm

6月の読書メーター
読んだ本の数:20冊
読んだページ数:6411ページ

幸福な遊戯 (角川文庫)幸福な遊戯 (角川文庫)
たぶん、初めてじゃないかなと思う。角田光代の小説を読んだのは。デビュー作。
読了日:06月29日 著者:角田 光代
ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)
読了日:06月28日 著者:川上 弘美
生きる歓び (中公文庫)生きる歓び (中公文庫)
生きることに歓びをうまく見出せないから、「生きる歓び」なんて本を手にとってしまうのかしら。あとがきによるとこの文章はフィクションではないが、しかしこれは小説であるとのこと。フィクションではない小説、というのはなんかよくわからない。小説=フィクションではない、というのがどうもよくわからない。日記≠小説。実際にあったことをもとに思索した、その過程が小説として成り立っているということの不思議。
読了日:06月27日 著者:保坂 和志
エリック・ホッファー自伝―構想された真実エリック・ホッファー自伝―構想された真実
読了日:06月23日 著者:エリック ホッファー
もうひとつの季節 (中公文庫)もうひとつの季節 (中公文庫)
季節の記憶の続編というか姉妹編である。新聞で連載された小説なので、というわけでもないのかもしれないのだけれど、他の保坂和志の小説に比べると読みやすいというかとっつきやすいなと思った。
読了日:06月22日 著者:保坂 和志
KAWADE夢ムック 文藝別冊 武田百合子KAWADE夢ムック 文藝別冊 武田百合子
こんな魅力的なムックは初めてだ。対談:武田百合子×吉行淳之介川上弘美×村松友視。随所に百合子、娘花の写真。堀江敏幸金井美恵子加藤治子のエッセイやインタビュー。武田花のインタビューもあった。無人島に3冊本を持っていくとしたら?このムックはもってくかもしれない。永久保存決定
読了日:06月21日 著者:
季節の記憶 (中公文庫)季節の記憶 (中公文庫)
この小説には、小説の中にぐいっと読者を引き入れて、我を忘れて物語世界に浸らせるような種類の力強さのようなものは、あまりない。けれど、読み進んでいる時間の中に、そして読み終えたあとの余韻のなかになにかこう、感じさせるものがある。それは感動ではなく、感傷でもなく、ずいぶんと不思議な感じで、これをなんと呼べばいいかはわからないけれど、この感じを得られただけでこの本を読んでよかったなと思えた。そんなふうに思える小説は、たぶんそんなに多くはないのだろうと思うから、この本は僕にとってはきっと貴重な一冊なのだろうな。
読了日:06月21日 著者:保坂 和志
富士日記〈下〉 (中公文庫)富士日記〈下〉 (中公文庫)
読了日:06月20日 著者:武田 百合子
化蝶散華 (ちくま文庫)化蝶散華 (ちくま文庫)
坊さん作家の半自伝的小説、なのかしら。坊さんなのに、お金の勘定に四苦八苦してるところからはじまって、唖然。読んでいくとお金というのが人間の業をあらわしているのねと思えてくるのだけれど、なんかヒトって生きているだけでこう、穢れていってしまう。最後、白銀の華が蝶と化して空へ舞い散ってゆくさまが描かれるのだけれど、それはそこはかとない解放感に包まれてえもいわれず
読了日:06月19日 著者:玄侑 宗久
富士日記〈中〉 (中公文庫)富士日記〈中〉 (中公文庫)
読了日:06月19日 著者:武田 百合子
明恵上人 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)明恵上人 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)
読了日:06月18日 著者:白洲 正子
聖少女 改版 (新潮文庫 く 4-9)聖少女 改版 (新潮文庫 く 4-9)
読了日:06月18日 著者:倉橋 由美子
あたりまえのこと (朝日文庫)あたりまえのこと (朝日文庫)
読了日:06月18日 著者:倉橋 由美子
明恵 夢を生きる (講談社プラスアルファ文庫)明恵 夢を生きる (講談社プラスアルファ文庫)
読了日:06月18日 著者:河合 隼雄
むかし卓袱台があったころ (ちくま文庫)むかし卓袱台があったころ (ちくま文庫)
読了日:06月18日 著者:久世 光彦
光ってみえるもの、あれは (中公文庫)光ってみえるもの、あれは (中公文庫)
再読。川上弘美は距離感を描くのがうまい、そういう風に言われることがある。自分と家族との距離、恋人同士の距離、友人との距離、自分と自分との距離。そして自分と世界との距離。16歳の翠くんは、そういう距離感に少し違和感をもっていて、それはつまり自分の立ち位置が本来あるべき場所とずれているということから生じているらしい。そして、そういう風に感じているのは翠だけじゃなくては花田も平山水絵も大鳥さんもそうらしくて、自分の中心がどこにあるんだろうと探しながら揺らめきながら運動し、距離感の最適な場所を探し彷徨う。
読了日:06月14日 著者:川上 弘美
美の死―ぼくの感傷的読書 (ちくま文庫)美の死―ぼくの感傷的読書 (ちくま文庫)
くぜさんの書評集。
読了日:06月13日 著者:久世 光彦
向田邦子との二十年 (ちくま文庫)向田邦子との二十年 (ちくま文庫)
彼女にとって僕は特別な存在だったとは思わないが、僕にとっては彼女の存在は特別なものであったというようなことが書いてあって、そういう関係はなんだかいいなぁと思ったりします。
読了日:06月11日 著者:久世 光彦
1Q84 BOOK 21Q84 BOOK 2
読了日:06月03日 著者:村上春樹
1Q84 BOOK 11Q84 BOOK 1
読了日:06月01日 著者:村上春樹

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